「男性と同じやり方」で大丈夫? ── ホルモンから考える、女性のためのトレーニングの基本

「男性と同じやり方」で大丈夫? ── ホルモンから考える、女性のためのトレーニングの基本

Is 'Training Like a Man' Right for You? — The Hormonal Basis of Sex-Specific Exercise

ざっくり30秒でわかる

この記事のポイントを先にお伝えします。

  • 筋肉の伸びしろは男女同等。テストステロンの量は違っても、適切にトレーニングすれば女性もちゃんと成果が出ます
  • 糖質制限の効果は人それぞれ。「男性に効いたから女性にも」とは限りません
  • 空腹トレーニングの長期的な優位性は未確認。慢性的なエネルギー不足にはご注意を
  • 脂質は「カット」より「質」。良質な脂質はダイエットの味方になりえます
  • エストロゲンは筋肉にも関わるホルモン。無理なダイエットでバランスが崩れるリスクがあります
  • 月経周期に合わせた最適化は、まだ科学の結論が出ていません。体調優先でOK

成果が出ないのは、あなたの努力不足ではありません。

詳しく知りたい方は、このまま読み進めてください。

この記事の構成

エビデンスレベルの見方

マーク意味目安
◆◆◆確立複数の大規模研究やメタアナリシスで一貫して支持
◆◆◇有力な示唆方向性は一致するが、条件限定や研究数の不足あり
◆◇◇初期的知見動物実験や小規模研究の段階。ヒトでの確証は不十分

科学は「白か黒か」ではなく、グラデーションです。「まだわからないこと」を正直に伝えることも、この記事の大切な役割です。

記事の構成(知りたい情報にジャンプできます)

  1. プロローグ ── あの日のジムで
  2. Q1. 女性は男性より筋肉がつきにくいの? ◆◆◆
  3. Q2. 糖質制限って、女性にも効くの? ◆◆◇
  4. Q3. 空腹で走ると脂肪が燃えやすいって本当? ◆◇◇
  5. Q4. ダイエット中に脂質はカットすべき? ◆◆◇
  6. Q5. エストロゲンって、筋肉とも関係があるの? ◆◆◇
  7. Q6. 月経周期に合わせてトレーニングすべき? ◆◆◆
  8. ひと目でわかる比較表
  9. トレーナーの方へ
  10. 参考文献

プロローグ ── あの日のジムで

トレーナーに「いい感じですよ」と言われた

でも、家に帰って鏡の前に立つと、3ヶ月前と何も変わっていない気がする

隣のマシンの男性は、みるみる体が変わっていく。同じジムで、同じ時間を過ごしているのに

「もっと追い込みましょう」

「糖質、もう少し減らせますか?」

「朝イチの空腹で走ると脂肪が燃えますよ」

「脂質は敵ですよ、カットしましょう」

「生理? ……まあ、様子見ながらやりましょう」

その言葉に従うたびに、なぜか体は疲れていく

肌は荒れ、イライラして、仕事の集中力も落ちている

自信も、少しずつ削れていく

──もし、これが「あなたの話」に聞こえたなら、この記事はあなたのために書きました。

パーソナルトレーナーの約7割は男性です。悪意があるわけではなくても、「自分の体で成功した方法」を善意で勧めているケースは少なくありません。SNSでも「糖質ゼロで−10kg」「空腹ランで脂肪燃焼」といった極端な情報が拡散され、多くの女性がそれに影響を受けています。

この記事は、そうした情報を鵜呑みにする前に知っておいてほしいことを、科学と長年の経験の視点からまとめたものです。


変わらないのは、あなたのせいじゃない

最初にお伝えしたいことがあります。

成果が出ないのは、あなたの頑張りが足りないからではありません。

あなたの体とトレーナーの体は、同じ「人間の体」です。でも、「男女」で中で動いているプログラムが違います。

たとえるなら、iPhoneとAndroid。どちらもスマートフォンだけど、同じアプリが同じように動くとは限らない。

あなたの体には、あなたの体に合った動かし方がある。トレーナーの体で成功した方法が、あなたの体で同じ結果を出すとは限らない。

ただし、これも大事なことですが──同じ方法で成果が出ている女性もたくさんいます。 性別は一つの要因であって、すべてではありません。個人差は性差よりもずっと大きい。

この記事で伝えたいのは、「女性だから無理」ではなく、「知っておけば、もっと賢く選べる」ということです。


Q1:女性は男性より筋肉がつきにくいの? ◆◆◆

A:テストステロンの量は大幅に違います。でも、適切なトレーニングでの「伸びしろ」は同じくらいあります。

筋肉を育てるホルモン、テストステロン。女性の体内にもありますが、その量は男性の約15分の1です(Hunter & Senefeld, 2024)。

それなら女性は筋トレしても意味がない? そんなことはありません。

2020年のメタアナリシス(Roberts et al.)では、同じレジスタンストレーニングを行った場合、筋肥大の相対的な改善幅は男女で有意差なしでした! 逆に、上肢(ざっくり腕と手)の相対筋力については、女性のほうがより大きく伸びる可能性すら示されています。2025年のBayesianメタ解析(29研究)でもこの結果は追認されています。

あなたの体にも、伸びしろは十分にある。

問題は「同じメニューをすること」ではなく、男性基準の減量目標や、回復を無視したスケジュールを、あなたの体にそのまま当てはめることです。

女性と男性のレジスタンストレーニングによる筋肥大の相対的改善幅を比較したイラスト。改善幅は男女で同等であることを示している

比較表:筋肉の伸びしろ

項目女性男性出典
テストステロン量男性の約1/15基準値Hunter & Senefeld, 2024
筋肥大の相対的改善幅男性と同等基準値Roberts et al., 2020
上肢の相対筋力改善男性より大きい可能性基準値Roberts et al., 2020

Q2:糖質制限って、女性にも効くの? ◆◆◇

A:効く人もいますが、男性と同じ効果が一貫して確認されているわけではありません。個人差が大きい分野です。

そもそも、脂肪のつき方が男女で異なる傾向があります。

男性は内臓脂肪を蓄えやすく、女性はエストロゲンの働きにより皮下脂肪を蓄えやすい傾向がある(Fuente-Martín et al., 2013, Adipocyte)。内臓脂肪は代謝的に活発で食事制限への反応が速いため、男性は糖質制限で短期間に変化を実感しやすい場合があります。

DIETFITS試験の二次解析(Aronica et al., 2021)では、男性では低炭水化物食が低脂肪食より有意に大きい減量効果を示した(-2.98 kg, P<0.001)が、女性では両者に差がなかったと報告されています。

一方で、POUNDS LOST試験(Sacks et al., 2009)のような大規模研究では、脂肪と炭水化物の比率による減量差は男女とも認められていません。

つまり、「糖質制限は男性に効いて女性に効かない」と単純に言い切れるほどデータは一致していません。 体格、活動量、総エネルギー摂取量、継続のしやすさなど複合的な要因が関わっています。

さらに、2022年のメタアナリシス(Cano et al.)では、中強度の有酸素運動において、非アスリートの女性は男性より脂質をエネルギー源に使う傾向が確認されています(ただしアスリートでは差なし)。

矛盾した結果で混乱しますね! 「頑張って糖質を我慢しているのに変わらない」──そう感じたとき、それはあなたの体質や努力の問題ではなく、そのアプローチがあなたに合っていないだけかもしれません。無理をせずにうまくいっている方法があるなら、それを信じて大丈夫です。SNSで韓国のアイドルがインスタであげているような異常なダイエットや、加工しまくりの写真に騙されて心とカラダを壊さないで下さい。

低糖質ダイエットの効果における男女差と個人差を示すイラスト。男性では効果が出やすい場合があるが女性では結果が一貫しないことを表現

比較表:糖質制限の効果

研究結果性差
DIETFITS二次解析(Aronica et al., 2021)低炭水化物 vs 低脂肪男性で差あり、女性で差なし
POUNDS LOST(Sacks et al., 2009)脂肪/炭水化物比率男女とも差なし
Cano et al., 2022有酸素運動時のエネルギー基質非アスリート女性は脂質利用が多い傾向(アスリートでは差なし)

Q3:空腹で走ると脂肪が燃えやすいって本当? ◆◇◇

A:一時的に脂肪の利用は増えますが、長期的な痩せ効果は確認されていません。この分野はまだデータが非常に少ないです。

Schoenfeld et al.(2014)のRCT(若年女性20名、4週間)では、空腹で有酸素運動をしても食後に運動をしても、体組成の変化に有意な差は見られませんでした。ただし、この研究は小規模・短期間であり、エビデンスの強度は限定的です(◆◇◇)。

女性が空腹時トレーニングを続ける場合、特に注意すべき点があります。

慢性的なエネルギー不足のリスク。 減量中や運動量が多い女性では、エネルギー利用可能性がRED-S(相対的エネルギー不足)の危険域に近い場合があります。慢性的にエネルギー不足が続く場合、筋量維持や回復に不利になりうることが、IOCの2023年合意声明で警告されています(Mountjoy et al., 2023)。これは単発の朝ランの話ではなく、日常的にエネルギー不足が蓄積する場合の問題です。

ホルモンへの影響。 Cienfuegos et al.(2022)のレビューでは、間欠的断食は女性のエストロゲン、ゴナドトロピン、プロラクチンに明確な影響を示していません。ただし、アンドロゲンマーカーへの影響は報告されています。

では、科学がまだ結論を出していないなら、なぜ注意が必要なのか? ここからは現場の知見です。

空腹を我慢しながらのトレーニングは、多くの女性にとって強いストレスになりえます。疲労が蓄積し、トレーニング自体が「つらいもの」になっていく。つらいことは長続きしません。続かないトレーニングは成果を生まず、反動的な食行動や、継続率の低下につながるリスクがあります。学生時代の勉強を思い出してください。嫌いな科目はどんどん嫌いになって、手がつけられなっていく…。僕の場合は英語でした(笑)。最悪のケースは摂食障害になってしまうことです。そこまでいかなくても、仕事や勉強、美容に問題が起こることなんて継続出来るはずがありませんし、継続すべきでもありません。

空腹時トレーニングは「禁忌」とまでは言えません。 もしそれで調子がいいなら、続けてかまいません。でも、もしつらいと感じているなら──朝のトレーニング前に少量の糖質を摂ることで、主観的なきつさが和らぎ、続けやすくなる場合があります(※臨床研究ではなく実務的な提案です)。

空腹時トレーニングと食後トレーニングを比較するイラスト。空腹でエネルギー切れの女性とバナナを食べてエネルギー満タンで走る女性を対比

比較表:空腹時トレーニング

論点現在のエビデンス確度
空腹運動で脂肪利用が一時的に増える急性研究で報告あり◆◆◇
長期の体組成改善に差がある差は確認されていない◆◇◇
単発の空腹運動でホルモンが崩れる示されていない◆◇◇
慢性的エネルギー不足で健康リスクRED-Sとして確立◆◆◆

Q4:ダイエット中に脂質はカットすべき? ◆◆◇

A:「脂質=敵」は過去の常識になりつつあります。良質な脂質はダイエットの味方になりえます。ただし、低脂肪食も有効な選択肢の一つです。

Ebbeling et al.(2018)のレビューでは、低脂肪食を中心とした公衆衛生ガイドラインの限界と、食事中の脂質の質を見直すアプローチの重要性が論じられています。また、Shai et al.(2008)の2年間のRCT(DIRECT試験)では、低脂肪食も有意に体重を減らしましたが、地中海食と低炭水化物食は「有効な代替」と評価されています。

つまり、低脂肪食が「劣る」というより、「必ずしも最善とは限らない」が正確です。

男性では、低脂肪食がテストステロンを有意に低下させることがメタアナリシス(Whittaker & Wu, 2021; 6研究・206名・全員男性)で示されています。ただし、この研究は男性のみを対象としており、女性のエストロゲンへの影響は検証されていません。 一般に、極端な食事制限や慢性的なエネルギー不足が続く場合にホルモン環境全体に悪影響を与えうることは、RED-Sの文脈で指摘されています(Mountjoy et al., 2023)。女性にとっては美容面でも心配ですね。

いま注目されているのは、脂質の「量」ではなく「質」を見直すアプローチです。

アボカド、オリーブオイル、青魚(オメガ3)、ナッツ類に含まれる不飽和脂肪酸は、体内の慢性炎症を抑え、インスリン感受性を改善することが報告されています。脂質は消化に時間がかかるため、食後の満足感を高め、継続しやすいダイエットにつながる可能性があります。特にアボカドは飽きずに美味しく食べられるレシピが充実しているので、ぜひ検索してみて下さい!

良質な脂質を適度に摂ることは、食欲をコントロールしながら「無理なく続けられるダイエット」の基盤になりうるのです。 これは現在最も科学的に支持されているアプローチの一つです。

もちろん、低脂肪食でうまくいっている人がそれを変える必要はありません。大切なのは、自分に合った方法を見つけることです。

極端な脂質カットでうなだれる女性と良質な脂質を含む食事で元気な女性を対比するイラスト

比較表:食事アプローチ

アプローチ短期の変化長期の留意点確度
極端な糖質制限男性は変化を実感しやすい場合あり女性では効果が一貫しない。個人差大◆◆◇
極端な脂質カット一時的に体重は落ちる満足感の低下、継続しにくさ◆◆◇
良質な脂質の適度な摂取(地中海食等)緩やかだが着実心疾患リスク低下、継続しやすい◆◆◇

Q5:エストロゲンって、筋肉とも関係があるの? ◆◆◇

A:マウスでは明確に関係が示されています。ヒトでも方向性は支持されていますが、まだ研究途上です。

2020年に熊本大学・筑波大学の研究チーム(AMED支援)がマウスを用いた実験で、エストロゲン受容体β(ERβ)が筋肉の幹細胞に直接作用して、筋肉の発育と再生に関わっていることを明らかにしました(Seko et al., 2020)。ヒトでも、閉経前後の女性でエストロゲンの低下と筋力低下の関連が報告されています(Hunter & Senefeld, 2024)。

過度なダイエットでエネルギー不足が慢性的に続くと、エストロゲンのバランスが崩れ、月経が止まることがあります。骨密度の低下、疲労骨折のリスク増加、そして筋肉の機能への悪影響の可能性。まったくの逆効果ですね。美容のために始めたダイエットのせいでホルモンバランスが乱れて肌も荒れるなんて最悪ですね…。中には無理をして月経が止まると喜んでいる人がいますが、自分に厳しくして心身を損うのは避けたいですね。

これは2023年にIOCがRED-S(相対的エネルギー不足)◆◆◆ として注意喚起した問題です(Mountjoy et al., 2023)。リスクは特定の体脂肪率で線引きできるものではなく、低エネルギー利用可能性、急速な減量、慢性疲労、無月経の有無を総合的に評価する必要があります(Loucks, 2003)。

エストロゲンと筋肉や骨の関係を示すイラスト。女性ホルモンの化学構造から筋肉への影響経路を図解

比較表:エストロゲンと筋肉

知見対象確度
ERβが筋肉の発育・再生に関与マウス◆◇◇
エストロゲン低下と筋力低下の関連閉経前後の女性◆◆◇
慢性エネルギー不足がホルモン環境を悪化ヒト(男女)◆◆◆

Q6:月経周期に合わせてトレーニングすべき? ◆◆◆

A:科学的には、まだ結論が出ていません。大切なのは、自分の体の声を聞くことです。

2023年のアンブレラレビューの結論:

「月経周期のホルモン変動が、筋力トレーニングのパフォーマンスや筋肥大に明確な影響を与えるとは、現時点では結論できない。」 (Colenso-Semple et al., 2023)

──がっかりしましたか?

でも、「まだわからない」と正直に言えること。それが、私たちが一番大切にしていることです。

わかっていないことを、さもわかっているように伝えるのは簡単です。でもそれは、あなたの体を預かる立場としてやってはいけないことだと考えています。

だから、今お伝えできることはシンプルです。

  • 生理前後で体が重い日は、強度を落として大丈夫
  • それは「サボり」ではなく、体に合わせた賢い選択
  • 逆に、生理中でも調子が良ければ、普段通りトレーニングして問題ない
  • あなたの体調の変化は、研究結果と並んで大切な「個別データ」です(これは「N-of-1」いいますが、興味を持たれたら検索してみて下さい‼)

月経周期とトレーニングのタイミングについて考える女性のイラスト。カレンダーを見ながら腕を組んで首をかしげている

比較表:月経周期とトレーニング

テーマかつての常識今の研究確度
「卵胞期に追い込め、黄体期は軽く」定説のように語られていた科学的にはまだ結論が出ていない◆◆◆(「結論できない」こと自体が確立)
個人の体調を優先すべき軽視されがちだった現時点で最も実践的な指針

ひと目でわかる比較表

女性の体 vs 男性の体(傾向)

項目女性に多い傾向男性に多い傾向出典
テストステロン量男性の約1/15基準値Hunter & Senefeld, 2024
筋トレの相対的な伸び男性と同等基準値Roberts et al., 2020
脂肪蓄積部位皮下脂肪が多い傾向内臓脂肪が多い傾向Fuente-Martín et al., 2013
有酸素運動のエネルギー源脂質を優先する傾向(非アスリート)糖質を優先する傾向Cano et al., 2022
エストロゲンの役割筋肉・骨・代謝を広く保護少量存在Seko et al., 2020; Hunter & Senefeld, 2024

※これらは集団としての傾向です。個人差は性差よりも大きく、すべての女性・男性に当てはまるわけではありません。

今の研究 vs かつての常識

テーマかつての常識今の研究が示していること確度
脂質「脂質=太る。カットすべき」低脂肪食も有効だが、良質な脂質の見直しが注目されている◆◆◇
糖質制限「糖質を減らせば誰でも痩せる」効果には個人差が大きく、性差の影響も指摘されている◆◆◇
空腹時運動「空腹で走れば脂肪が燃える」長期的な体組成改善の優位性は未確認。データ自体が少ない◆◇◇
女性の筋トレ「女性は軽めでいい」相対的な改善幅は男女同等。適切な負荷と回復で成果が出る◆◆◆
月経周期と運動「卵胞期に追い込め」科学的にはまだ結論が出ていない。個人の体調を優先◆◆◆

あなたへ

あなたの体には、あなたのルールがある。

そして、適切なプログラムと十分なエネルギーがあれば、あなたの体はちゃんと応えてくれる。研究がそれを示しています。

極端に糖質を削るのではなく、自分に合ったバランスを見つける。 空腹で無理に走るのではなく、続けやすい方法を選ぶ。 追い込むのではなく、回復を大切にする。

「ゆるい」のではありません。「賢い」のです。

整形外科専門医として、日本スポーツ協会公認スポーツドクターとして人体のしくみを知り尽くした医師が、トレーナーの「わからない」に答える。

それがDr. Buddyの仕事です。

もし今、トレーニングに迷いを感じているなら、こう自分に問いかけてみてください。

「このプログラムは、私の体の特徴を理解している人が作ったものだろうか?」


ここまで読んでくださった方へ。

もしあなたがトレーナーなら、ここからが本題です。 もしあなたがジムに通う側なら、「自分のトレーナーは、こういう視点を持っているだろうか?」という目でこの先を読んでみてください。

それが、あなた自身を守る力になります。


トレーナーの方へ ── 女性クライアントを指導する際に気をつけてほしい8つのこと

① 「女性だから伸びない」という思い込みを捨てる ◆◆◆

メタアナリシス(Roberts et al., 2020)は、筋力・筋肥大の相対的な改善幅は男女で同等であることを示しています。伸び悩みの原因を「性差」で片付けず、プログラム設計・回復・栄養のボトルネックを見極めてください。

② 減量指導に「RED-S」の視点を持つ ◆◆◆

IOCの2023年合意声明で注意喚起されたRED-Sは、月経異常・骨密度低下・パフォーマンス低下を引き起こしえます。低エネルギー利用可能性(概ね30 kcal/kg FFM/日未満が目安、個人差大)、急速な減量、慢性疲労、無月経の有無を総合的に評価してください。RED-Sは女性に多いですが、男性にも起こりえます。

③ 糖質制限を一律に適用しない ◆◆◇

低炭水化物食の効果には個人差が大きく、男女で一貫した差があるかどうかも研究によって結果が異なります。トレーニング内容に見合った総エネルギーと炭水化物の確保を最優先で確認してください。

④ 空腹時トレーニングの推奨は慎重に ◆◇◇

長期的な体組成改善において食後のトレーニングとの明確な差は示されていません(Schoenfeld et al., 2014)。この分野はデータ自体が少ないことに留意してください。減量中や運動量が多い女性では、慢性的なエネルギー不足の蓄積に注意が必要です。

⑤ 脂質カットではなく「脂質の質」を指導する ◆◆◇

低脂肪食も有効な選択肢の一つですが、脂質の質を見直すアプローチが注目されています。男性では低脂肪食がテストステロンを低下させるというメタアナリシスがあります(Whittaker & Wu, 2021)。アボカド・オリーブオイル・青魚・ナッツ類を「食欲コントロールの道具」として説明してください。

⑥ 「追い込む」の定義を見直す ◆◆◇

女性と男性で疲労の出方やセット間の回復パターンに違いがみられることが報告されています。回復状態を、次のセッションの重量設定よりも優先してモニタリングしてください。

⑦ 月経の話を避けない

クライアントの月経状態を把握せずに負荷や減量ペースを設計するのは、体温を測らずに解熱剤を処方するようなものです。「いつでも体調を教えてください」と伝えるだけで、信頼関係は大きく変わります。

⑧ 「わからないこと」は医師に聞く

月経異常、慢性疲労、関節の痛み ── 迷ったら医師に相談する判断力こそがプロの資質です。Dr. Buddyの「ドクターホットライン」は、こうした場面でトレーナーが医師に相談できる仕組みです。

「正しく怖がり、正しく頼る」── それが、クライアントの信頼と安全を同時に守る道です。


この記事のまとめ

主張確度
適切なトレーニングでの筋力・筋肥大の改善幅は男女で同等◆◆◆
危険なのは、男性基準の減量・回復無視・月経無視の機械的適用◆◆◆
低炭水化物食の効果には性差の可能性があるが、個人差も大きい◆◆◇
空腹時トレーニングは長期的な体組成改善の明確な優位性がない◆◇◇
エストロゲンが女性の筋肉にとって重要◆◆◇
慢性的エネルギー不足がRED-Sにつながりうる◆◆◆
低脂肪食は他のアプローチと比較して必ずしも優位ではない◆◆◇
良質な脂質が食欲コントロールに寄与する◆◆◇
月経周期に合わせたトレーニング最適化は科学的にまだ結論が出ていない◆◆◆

成果が出ないのは、あなたの努力不足ではありません。我慢とカットの代わりに、あなたの体が求めるエネルギーと栄養を正しく届けること。それが一番の近道です。


参考文献

  1. Hunter, S.K. & Senefeld, J.W. (2024). “Sex differences in human performance.” J Physiol, 602(17), 4129-4156. PubMed: 39106346
  2. Roberts, B.M., Nuckols, G., & Krieger, J.W. (2020). “Sex Differences in Resistance Training: A Systematic Review and Meta-Analysis.” J Strength Cond Res, 34(5), 1448-1460. PubMed: 32218059
  3. Seko, D., Fujita, R., Kitajima, Y., Nakamura, K., Imai, Y., & Ono, Y. (2020). “Estrogen Receptor β Controls Muscle Growth and Regeneration in Young Female Mice.” Stem Cell Reports, 15(3), 577-586. PubMed: 32822588
  4. Cano, A., Ventura, L., Martinez, G., Cugusi, L., Caria, M., Deriu, F., & Manca, A. (2022). “Analysis of sex-based differences in energy substrate utilization during moderate-intensity aerobic exercise.” Eur J Appl Physiol, 122(1), 29-70. PubMed: 34550468
  5. Mountjoy, M., Ackerman, K.E., Bailey, D.M., et al. (2023). “2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs).” Br J Sports Med, 57(17), 1073-1097. PubMed: 37752011
  6. Loucks, A.B. (2003). “Energy availability, not body fatness, regulates reproductive function in women.” Exerc Sport Sci Rev, 31(3), 144-148. PubMed: 12882481
  7. Colenso-Semple, L.M., D’Souza, A.C., Elliott-Sale, K.J., & Phillips, S.M. (2023). “Current evidence shows no influence of women’s menstrual cycle phase on acute strength performance or adaptations to resistance exercise training.” Front Sports Act Living, 5, 1054542. PubMed: 37033884
  8. Cienfuegos, S., Corapi, S., Gabel, K., Ezpeleta, M., Kalam, F., Lin, S., Pavlou, V., & Varady, K.A. (2022). “Effect of Intermittent Fasting on Reproductive Hormone Levels in Females and Males: A Review of Human Trials.” Nutrients, 14(11), 2343. PMC: PMC9182756
  9. Whittaker, J. & Wu, K. (2021). “Low-fat diets and testosterone in men: Systematic review and meta-analysis of intervention studies.” J Steroid Biochem Mol Biol, 210, 105878. PubMed: 33741447
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  15. Sacks, F.M., Bray, G.A., Carey, V.J., et al. (2009). “Comparison of weight-loss diets with different compositions of fat, protein, and carbohydrates.” N Engl J Med, 360(9), 859-873. PubMed: 19246357
  16. Shai, I., Schwarzfuchs, D., Henkin, Y., et al. (2008). “Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet.” N Engl J Med, 359(3), 229-241. PubMed: 18635428

※本記事は整形外科専門医・日本スポーツ協会公認スポーツドクター 清水健史の監修を受けています。

本記事は医療行為・診断を目的としたものではありません。個別の症状については医療機関にご相談ください。

This article is for educational purposes only and does not constitute medical advice. Please consult a healthcare professional for individual concerns.