首こり、結局なにをすればいい?── 「ほぐす」の次にやる、4つの運動

首こり、結局なにをすればいい?── 「ほぐす」の次にやる、4つの運動

「ほぐしても、また戻る」と感じているあなたへ

マッサージに行った日は、たしかに楽になる。

でも、2〜3日パソコンに向かうと、首の重さはまた戻ってくる。ストレッチ動画を見て首を伸ばしてみても、その場かぎり。

「結局、私は何をすればいいの?」

前回の記事「首がこる日は、気分も重い」では、首こりと気分の関係をお伝えし、最後に「ほぐしを入口に、動く・眠る・知るへつなぐ」とまとめました。

今回はその続きです。「動く」の中身を、具体的な運動・回数・やめどきまで落とし込みます。

先に結論を言うと、首こりの運動で大切なのは「こっている筋肉を伸ばし続けること」でも「姿勢を正しい形に固めること」でもありません。

力まずに動かす練習をして、少しずつ負荷に慣らし、日常の活動へ戻していくことです。


30秒でざっくりわかる、この記事のポイント

  • 首の痛み・こりには運動が勧められている。ただし「全員にこれが一番」という種目は、研究でもまだ決まっていない
  • そこで今回は、役割の違う4つの基本運動を選んだ:①小さなうなずき ②首の押し合い運動 ③肩まわりの筋トレ ④歩く。どれも道具なしでできる
  • 物足りない人・指導する人向けに、ゴムバンドを使う「もう一歩編」も紹介。ゴムバンドは100円ショップでも、やわらかいものが手に入る
  • ストレッチやほぐしは「入口」。主役にはしない。伸ばすだけより、筋力・持久力をつける運動の方に支持が集まっている
  • 最初から全部やらなくていい。1〜2種目+歩くから始める
  • 痛みは運動中・直後・翌朝の3回チェック。しびれ・力の入りにくさ・新しい痛みが出たら、その場で中止
  • 腕や手のしびれ、力の入りにくさ、急な激しい頭痛などがあるときは、運動より先に受診。「首こり」という呼び方だけでは、運動していい状態かは決まらない

保存版・道具なし「首こりの基本4種」。①小さなうなずき ②首の押し合い運動 ③肩まわりの筋トレ(壁プッシュアップ・プラスか壁の前でバンザイのどちらか1つ)④歩く。まずは1〜2種目+歩くから。運動中・直後・翌朝の反応を確認し、しびれ・脱力・新しい痛みは中止して相談。


目次

  1. はじめる前に:運動より先に、受診してほしいサイン
  2. この記事で使う用語
  3. Q1:首こりには、どんな運動がいいの? ◆◆◇
  4. Q2:ストレッチや「ほぐし」だけでは、だめなの? ◆◆◇
  5. Q3:基本の運動①「小さなうなずき」のやり方は? ◆◆◇
  6. Q4:基本の運動②「首の押し合い運動」のやり方は? ◆◆◇
  7. Q5:基本の運動③「肩まわりの筋トレ」のやり方は? ◆◇◇
  8. Q6:基本の運動④「歩く」だけで意味があるの? ◆◇◇
  9. Q7:もう一歩進みたい人・指導する人向け:ゴムバンドを使う運動は? ◆◇◇
  10. Q8:首を回したり、背中を動かしたりする運動は?
  11. Q9:デスクワークで気をつけることは?
  12. Q10:毎日、どれくらいやればいいの? ◆◇◇
  13. Q11:運動中に痛くなったら、やめるべき? ◆◇◇
  14. Q12:効果があったかは、どう判断すればいい?
  15. Q13:首こりと一緒に頭痛もあるときは? ◆◆◇
  16. Q14:この記事の運動、どこまで信じていい?
  17. あなたへ
  18. Q15:トレーナー・指導者が気をつけることは?
  19. Q16:もっと深く知りたいときは?

はじめる前に:運動より先に、受診してほしいサイン

この記事の運動は、首・肩まわりに症状がとどまる、くり返す首こり・首の痛みのある大人を想定しています。

次に当てはまる場合は、運動を始める前に医療機関で評価を受けてください。ここだけは、必ず先に読んでください。

すぐに医療機関・救急へ(119などの救急対応を優先)

  • 突然の、これまでにない激しい頭痛・首の痛み。特に、ものが二重に見える、ろれつが回らない、手足に力が入らないなどを伴う
  • 急に歩けなくなった、手足に急な麻痺が出た、意識がおかしい
  • 発熱に加えて、首がひどく硬い、全身の具合が悪い
  • 転倒や事故など、大きなけがのあとに強い首の痛みが出た

当日中に医療機関へ相談

  • 新たに手先が不器用になった(物を落とす、ボタンがとめにくい、字が書きにくい)、歩くとふらつく
  • 腕や脚の力が入りにくい、しびれが急に広がる・悪化する
  • 手足の症状に、新しい排尿・排便の異常を伴う
  • 首を動かしたときに、めまい・吐き気・耳鳴り・ものの見えにくさが出る、意識は保っているのに急に転ぶ

運動を始める前に、整形外科などへ相談

  • 腕や手に広がる痛み、しびれ、力の入りにくさがある
  • 首の手術を受けたことがある、首の骨が不安定と言われている、骨粗しょう症で骨折したことがある

最後のグループの方は、運動がダメという意味ではありません。主治医や理学療法士に、範囲と負荷を個別に決めてもらうのが安全です。

学びを深めたい人へ:受診の目安の根拠

急な筋力低下・手先の不器用さ・歩行の異常は、首の脊髄(頸髄症)など神経の問題を疑う症状として、英国NICEの紹介基準(NG127)でも速やかな評価の対象とされています[11]。首を動かしたときのめまい・吐き気・耳鳴り・視覚の異常・意識消失のない転倒は、整形外科リハビリテーションの教科書で「椎骨動脈循環不全」(首の血管の血流障害)を疑う症状として挙げられています[13]。同じ教科書は、首の痛みの評価では、まず重篤な病気(レッドフラッグ)を除外することを最初の項目にしています[13]。


この記事で使う用語

非特異的頸部痛(ひとくいてき けいぶつう)

骨折・感染症・腫瘍・明らかな神経や脊髄の障害など、特定の病気では説明されない首の痛みのこと。いわゆる「首こり」「首の痛み」の多くはこれにあたります。英語では nonspecific neck pain。画像の変化だけで痛みの原因が決まるわけではなく、日本語の「首こり」とも完全には一致しません[1,13]。

等尺性運動(とうしゃくせい うんどう)

関節を動かさずに、筋肉に力を入れる運動。たとえば、額に手を当てて頭と手を押し合い、頭の位置は変えない──というのがこれです。英語では isometric exercise(アイソメトリック)。

深頸屈筋(しんけいくっきん)

首の前側の深いところにある、頭と首を支える小さな筋肉のグループ(頭長筋・頸長筋)。「首のインナーマッスル」と紹介されることもあります。

肩甲帯(けんこうたい)

肩甲骨と鎖骨からなる、腕の付け根の骨格。この記事では、それを動かし支える筋肉も含めて「肩まわり」と呼びます。

RCT(ランダム化比較試験)

参加者をくじ引きのように無作為にグループ分けし、効果を比べる研究方法。思い込みや偏りの影響を減らせるため、治療の効果を確かめる研究として信頼性が高いとされます。

ガイドライン

専門家が研究結果を整理して「このような場合は、これを勧める」とまとめた指針。今回は、2025年のドイツの非特異的頸部痛ガイドラインと、米国理学療法士協会系(APTA/JOSPT)の頸部痛ガイドラインを参考にしています。

エビデンス記号(◆)の読み方

◆◆◇:その方向性には研究・ガイドラインの支持があるが、条件や確実性に限界がある。
◆◇◇:特定の種目・回数・順番への直接の根拠は限られ、実践上の調整を含む。
この記号は、各質問の答えに対する本記事独自の目安です。同じ節にあるすべての手順・回数の効果を保証するものではありません。


Q1:首こりには、どんな運動がいいの? ◆◆◇

A: 運動は勧められています。ただし「全員にこれが一番」という種目は決まっていないので、役割の違う運動を組み合わせます。

2025年に公表された非特異的頸部痛のガイドラインは、身体活動と運動を勧めています。一方で、研究ごとに運動の内容がバラバラなため、「全員に最適な、ただ一つの種目」までは決められないとも書いています[1]。

米国の理学療法のガイドラインも、慢性的な首の痛みには、首と肩まわりの動きのコントロール、筋力・持久力、動かしやすさ、全身の運動を組み合わせるという方針です[2]。

そこで今回は、「首のカーブをレントゲン写真で正常に戻す」ことではなく、次の3つを目的に運動を選びました。

目的選んだ運動見るべき変化
力まずに首を動かせるようにする小さなうなずき動きのなめらかさ、力み、動かしたときの痛み
首・肩まわりが負荷に耐えられるようにする首の押し合い運動、肩まわりの筋トレ作業を続けられる時間、疲れにくさ
「動かさない」状態から戻る歩くなどの全身運動日常の活動、睡眠の妨げ、生活の支障
学びを深めたい人へ:この組み合わせの位置づけ

この4種目の組み合わせは、ガイドラインをもとにした実践上の整理です。「この4つの組み合わせが、他のどの方法よりも優れる」と比較試験で確かめられたわけではありません[1,2]。


Q2:ストレッチや「ほぐし」だけでは、だめなの? ◆◆◇

A: だめではありません。でも、それだけで終わらせず、筋力・持久力をつける運動まで進んでください。

気持ちのいい範囲のストレッチや、マッサージなどの「ほぐし」は、こわばった首を動かしはじめる入口として役に立ちます。

ただ、慢性的な首の痛みの研究をまとめたコクランレビューでは、首・肩まわりの筋力トレーニングや、筋トレにストレッチを組み合わせる方法が支持され、ストレッチ単独の根拠は限られていました[3]。

整形外科のリハビリテーションの教科書も、頭が前に出た姿勢では「縮んで硬くなりやすい筋肉」と「弱りやすい筋肉」が組み合わさって起こると説明し、対策を「縮んだ筋肉はほぐす・伸ばす」「弱った筋肉は鍛える」の両方としています[13]。

「こっているから伸ばす」→「また戻る」→「また伸ばす」のくり返しから抜け出すために、弱りやすい側を鍛える運動へ橋渡しをしていきます。この記事の運動は、主にこの「鍛える」側を担っています。

学びを深めたい人へ:教科書の「筋肉のアンバランス」の図には何が書かれている?

『整形外科リハビリテーション 第2版』の図10「不良姿勢に伴う筋インバランス」(514ページ)と、非特異的頸部痛の章の表2「頭部前方位姿勢の影響」(523ページ)には、次のように書かれています[13]。

区分筋肉
筋力低下頸部深層屈筋群
筋力低下板状筋、僧帽筋中・下部線維、菱形筋、前鋸筋
短縮後頭下筋群、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋
短縮胸鎖乳突筋、斜角筋、大胸筋、小胸筋

同じ僧帽筋でも、上部は「短縮」、中・下部は「筋力低下」と分かれている点に注意してください。これは運動を選ぶ参考になる考え方ですが、姿勢の写真だけで、あなたの筋肉の長さや強さが診断できるわけではありません。実際にどこを伸ばし、どこを鍛えるかは、症状・可動域・筋力や持久力・動かしたときの反応で判断します。

コクランレビューについても補足します。すべての人で「筋トレはストレッチより優れる」と直接比較で確定したわけではなく、最適な回数・強さ・期間も決まっていません。また、検索対象は2014年までの研究です[3]。


Q3:基本の運動①「小さなうなずき」のやり方は? ◆◆◇

A: 仰向けで、後頭部を枕や床につけたまま、ほんの小さく「はい」とうなずきます。力まずに首を動かす練習です。

運動①小さなうなずき。仰向けで膝を立て、薄い枕やタオルで頭と首を支える。後頭部をつけたまま小さくうなずく。口を閉じて上下の歯は離し、舌先を上あごに。首の前に指先を当て、ぎゅっと硬くならない範囲で。頭を持ち上げない、強くあごを引きすぎない、首を床へ強く押しつけない。

役割:首の前の深い筋肉を、表面の筋肉に頼らずに使う練習

やり方

  1. 仰向けになり、膝を立てる。頭と首が楽に支えられるよう、薄い枕やたたんだタオルで高さを調整する
  2. 口は閉じて、上下の歯は離す。舌の先を上あごにつける
  3. 首の前(のどの両脇)に指先を軽く当てる
  4. 後頭部を枕や床につけたまま、ほんの小さく「はい」とうなずく。あごを胸に近づける必要はない
  5. 指先の下の筋肉がぎゅっと硬くならないところで止め、息を止めずに5秒キープ
  6. ゆっくり元に戻す
項目はじめの目安
回数5秒×5回
頻度1日1回。悪化しなければ続ける
増やし方まず10回まで → キープを10秒まで延ばす
やり方を見直すサイン指先の下の筋肉が硬くなる、歯を食いしばっている、頭痛や首の痛みが強くなる

やらなくていい動き:頭を床から持ち上げる、首の後ろを床に強く押しつける、頭全体をぐっと後ろに引く(強い「あご引き」)。

大事な注意:この運動は「動かし方の練習」です。これだけで、重い負荷に耐える筋力・持久力がつくわけではありません。②③と組み合わせてください[4]。

学びを深めたい人へ:教科書でのやり方と、研究の詳細

教科書では、この運動は「頸部深層屈筋群(DCF)トレーニング」「頭頸部屈曲エクササイズ」として紹介されています。圧センサーや首の後ろに置いたタオルを使い、収縮10秒・休息5秒を1セットとします。胸鎖乳突筋や前斜角筋(首の表面の筋肉)が代わりに働いていないかを、手で触れて確かめながら行うよう注意書きがあります。「口は閉じるが歯は離し、舌の前方を上あごにつける」というコツも、教科書の記載です[13]。

研究:Blomgren J, et al. Effects of deep cervical flexor training on impaired physiological functions associated with chronic neck pain: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2018. PMID: 30486819。動きの協調性の改善は支持された一方、高い負荷に対する筋力・持久力への効果は小さいか、認められませんでした[4]。

「インナーマッスルだけを使い、表面の筋肉は一切使ってはいけない」と厳密に考える必要はありません。目的は、余計な力みを減らしながら動きを練習することです。


Q4:基本の運動②「首の押し合い運動」のやり方は? ◆◆◇

A: 額や頭の横に手を当てて、頭と手を軽く押し合います。頭は動かしません。首を大きく動かさずに、筋肉に負荷をかけられます。

役割:首を大きく動かさず、調整しやすい負荷を筋肉にかける

やり方

  1. 楽に座り、顔を正面に向ける
  2. 額に手のひらを当て、頭と手を軽く押し合う。頭の位置は変えない
  3. 3〜5秒押したら、力を抜いて休む
  4. 同じように後頭部、右の側頭部、左の側頭部でも行う
項目はじめの目安
力の強さ「楽〜やや楽」と感じる弱い力
回数各方向3〜5秒×3回。毎回力を抜いて休む
頻度週2〜3日から
増やし方各方向5回程度まで → そのあと押す力を少し強くする

守ること:息を止めない、歯を食いしばらない、頭が傾くほど強く押さない。押して痛みが強くなる方向は、無理に続けない。

首の押し合い運動。額・後頭部・右と左の側頭部に手を当て、頭を動かさずに弱い力で押し合う。各方向3〜5秒×3回、週2〜3日から。息を止めない、歯を食いしばらない、頭が傾くほど押さない。

学びを深めたい人へ:「最大筋力の20〜30%」ではなく「楽〜やや楽」にした理由

「最大の力の20〜30%で」という説明を見かけることもありますが、測らなければ正確にはわかりません。この記事では、自分の感覚で「楽〜やや楽」から始め、症状の反応で調整する方法にしました。首を動かさない運動でも、必ず痛みが出ないわけではありません[9]。


Q5:基本の運動③「肩まわりの筋トレ」のやり方は? ◆◇◇

A: 道具なしでできる「壁プッシュアップ・プラス」か「壁の前でバンザイ」のどちらか一つで十分です。ゴムバンドを使う運動は、もう一歩進みたい人向けにQ7で紹介します。

役割:腕を使うときの、首・肩まわりの負担に、少しずつ耐えられるようにする

どちらも、ふだん運動の習慣がない人が、家で道具なしにできるものです。

壁プッシュアップ・プラス

  1. 足元が滑らない場所で壁に向かって立ち、両手を肩の高さ前後につく。最初は壁の近くから
  2. 肘を曲げて胸を壁に近づけ、肘を伸ばして押し戻す
  3. 肘が伸びたら、最後に壁を「もうひと押し」する。左右の肩甲骨が肋骨に沿って外へすべり、胸が壁から少し離れる
  4. 頭を前に出したり、背中全体を大きく丸めたりせず、ゆっくり戻す

壁プッシュアップ・プラス。壁に両手をつき、肘を伸ばしたら最後に壁をもうひと押しして肩甲骨を前に出す。5〜8回×1セット、週2〜3日。頭を前に出しすぎない。

壁の前でバンザイ

整形外科のリハビリテーションの教科書で、肩甲骨まわりを安定させるトレーニング(僧帽筋の下の方をねらう運動)として紹介されている動きです[13]。

  1. 壁の近くに、壁に向かって立つ
  2. 肩甲骨を軽く背骨の方へ寄せ、少し下げることを意識する
  3. その意識のまま、両腕を前からゆっくり頭の上へ上げ、ゆっくり下ろす
  4. 首をすくめない、腰を反らさない。首や体でごまかさずに上がるところまででOK

壁の前でバンザイ。壁に向かって立ち、肩甲骨を軽く寄せて少し下げる意識のまま両腕を前からゆっくり上げる。首をすくめない、腰を反らさない、無理なく上がるところまで。5〜8回×1セット、週2〜3日。

項目はじめの目安(どちらの運動も共通)
回数5〜8回×1セットから
頻度週2〜3日
増やし方8〜12回へ → 2セットへ、の順に一つずつ。物足りなくなったらQ7へ

肩を上げると痛む人は、壁プッシュアップ・プラスの方が向いています。どちらでも肩が痛むときは、手の高さ・壁との距離・動かす幅を小さくし、それでも痛むなら中止して相談してください。

学びを深めたい人へ:「肩甲骨を寄せて下げる」の意味と、根拠の範囲

教科書の図18Aの説明は「肩甲骨の内転・下制を意識しながら、肩関節の屈曲運動を行う。頸部・体幹の代償が生じない範囲で行う」です[13]。ここでいう「意識」は、肩をすくめて首で腕を持ち上げるクセを防ぐためのものです。腕を高く上げるときは、肩甲骨も自然に外側・上向きへ回ります。その動きまで力で止める必要はなく、「下げたまま固める」こととは違います。

肩甲帯の筋トレは、慢性的な首の痛みに対する運動の主要な選択肢です[2,3]。ただし、ここで示した種目や回数そのものが、他の種目より優れていると確かめられたわけではありません。肩甲帯トレーニングのRCT(Andersen CH 2014、オフィスワーカー47人、監督下で週3回×20分・10週間)はありますが、今回の軽い壁運動と同じ処方ではありません[14]。壁を使った運動で前鋸筋が働くことを示した研究は健康な20人の筋活動の測定で、首こり改善を直接示すものではありません[12]。


Q6:基本の運動④「歩く」だけで意味があるの? ◆◇◇

A: あります。首だけに意識を集中させず、全身の活動を戻すことが目的です。ただし、歩くだけで首の筋トレの代わりにはなりません。

役割:首を「かばって動かさない」状態から、全身の活動を段階的に戻す

項目はじめの目安
時間5〜10分
頻度週3〜5日。通勤や買い物など、生活の中に組み込む
強さおしゃべりできるくらい。ゆっくりでもいい
増やし方症状と疲れを見ながら、20〜30分くらいまで少しずつ延ばす

まずは歩く。5〜10分、週3〜5日、おしゃべりできるくらいの強さから。腕と肩は自然に振り、首を固めない。歩くだけで首の筋トレの代わりにはならない。

腕や肩は自然にふって、首を固めたまま「正しい姿勢」をキープしようとしないでください。気持ちよく歩くことが優先です。

前回の記事でお伝えした通り、首こりは睡眠や気分ともつながっています。日中に体を動かすことは、眠りや気分を整える土台にもなります。ただし、これは「歩けばメンタルが治る」という意味ではありません。


Q7:もう一歩進みたい人・指導する人向け:ゴムバンドを使う運動は? ◆◇◇

A: 道具なしの運動で物足りない人、続けても良くならない人、トレーナーなど指導する人向けに、ゴムバンドを使う運動を紹介します。

始める目安:道具なしの運動が楽にでき、運動中・直後・翌朝に悪化がないこと。整形外科の教科書にも「姿勢や動作パターンが改善する前に、首の筋肉を過度に鍛えない」とあります[13]。肩まわりは「バンド・ロー」か「バンドの引き広げ」のどちらか一つで十分です。

バンドへ進む前に確認すること。基本の動作が安定している、今の負荷が楽にできる、運動中・直後・翌朝に悪化がない。良くならない=負荷不足とは限らない。

続けても良くならない場合は、負荷が足りないとは限りません。やり方の見直しや、医療機関での評価も考えてください。

ゴムバンドについて

トレーニング用のゴムバンドやチューブは、100円ショップでも、強度の低い(やわらかい)ものが売られています。最初はいちばん弱いものから始めてください。使う前に傷・ひび割れ・劣化を確認し、傷んだものは使いません。古いゴムは切れやすく、顔の方向へ跳ね返ると危険です。引いた手を急に放さないでください[15]。

バンド・ロー

  1. メーカーが認める固定具(ドアアンカーなど)を使い、胸の高さの丈夫な場所にしっかり固定する。ドアノブに引っ掛けるだけにはしない。ドアに固定するときは、引く方向に開かないこと、他の人が開けないことを確認し、軽く引いてずれないことを確かめる
  2. 座るか立って、バンドの両端を持つ
  3. 肘を体の近くに保ちながら、ゆっくり後ろへ引く。肩甲骨は自然に背骨の方へ寄る
  4. ゆっくり戻す。戻すときは、肩甲骨が外側へ開いてOK

目安:頭を前に突き出さない、背中を大きく反らさない、肩を無理に下へ押し下げない。

バンド・ロー。説明書に合う固定具で胸の高さに固定し、肘を体の近くに保ってゆっくり引く。ドアノブに引っ掛けるだけにはしない。8〜12回×1セット、週2〜3日。

バンドの引き広げ

教科書で、僧帽筋の中ほどと菱形筋(肩甲骨の内側の筋肉)をねらう運動として紹介されている動きです[13]。

  1. 立って、ゴムバンドを体の前で、肩の高さに両手で持つ(肩が痛いときは、痛くない高さから)
  2. 肩甲骨を軽く背骨の方へ寄せることを意識しながら、両腕を左右に開いてバンドを引き広げる
  3. ゆっくり戻す。肩をすくめない、腰を反らさない

バンドの引き広げ。バンドを体の前で持ち、肩甲骨を軽く寄せる意識で両腕を左右に開く。肩をすくめない、腰を反らさない。8〜12回×1セット、週2〜3日。

項目はじめの目安(バンド・ロー、引き広げ共通)
回数8〜12回×1セット
頻度週2〜3日
強さフォームを崩さず、少し余裕を残して終われる強さ
増やし方回数を増やす → 2セットにする → バンドを少し強くする、の順に一つずつ

増やすのは一つずつ。回数→2セット→バンドを少し強く。いちばん弱いバンドから、傷・ひび割れを確認、固定具は説明書どおり、引いた手を急に放さない。ゴムバンドは100円ショップでもやわらかいものが買える。

プラスアルファ:首の後ろ側のバンド運動(経験者・指導者向け)

Q4の押し合い運動に十分慣れた人の発展版です。教科書では、首を後ろへ伸ばす筋肉のトレーニングとして紹介されています[13]。

  1. 立つか座って、ゴムバンドを後頭部にかけ、両端を顔の前で持つ
  2. 手でバンドを前へ軽く引いて、頭が前に倒れる方向に弱い抵抗をかける
  3. その抵抗に負けないように、頭をゆっくりまっすぐの位置まで戻す

はじめは弱い抵抗で5〜8回程度から。

注意:首を後ろへ大きく反らさないでください。腕や手のしびれ・痛みがある人は行わないでください。首を強く反らす姿勢は、首の神経が圧迫されている人では症状を悪くすることがあります。バンドが頭からずれたり、反動で頭が振られたりしないよう、ゆっくり行います。

首の後ろ側のバンド運動(追加メニュー)。後頭部にバンドをかけ両端を顔の前で持ち、弱い抵抗に対して頭をまっすぐの位置まで戻す。弱い抵抗で5〜8回。首を後ろへ大きく反らさない、腕や手にしびれ・痛みがある人は行わない。

保存版・上級者向け「首こりのゴムバンド編」。バンド・ローかバンドの引き広げのどちらか1つ、首の後ろ側のバンド運動、増やし方、器具の安全をまとめた1枚。

学びを深めたい人へ:教科書の運動を一般向けにした部分と、注意の根拠

図18B(引き広げ)の原文は「肩甲骨の内転を意識しながら、肩関節の外転運動を行う」、図16は「バンドで頸部屈曲方向に抵抗を加え、頸部を伸展する」です[13]。いずれも、首の神経根症・脊髄症の患者さん向けの章に載っている運動を、この記事で一般向けに説明し直したものです。首こりに対してローより引き広げが優れる、またはその逆を示すものではありません。

首を反らす動きへの注意は、教科書の複数の章で一致しています。「頸椎伸展位は症状の増悪につながるため、過度に伸展する動作は避けるよう指導する」「過度な頸椎の後屈は、頸椎由来の神経症状を増悪させる可能性がある」といった記載です[13]。


Q8:首を回したり、背中を動かしたりする運動は?

A: 必要な人だけ追加します。全員がやる必要はありません。

首をゆっくり左右に向ける

振り向きにくさがある人向け。楽に座るか仰向けで、左右へゆっくり顔を向けるだけです。はじめは左右3〜5回。痛みをがまんして端まで回す必要はありません。

手で頭を引っぱって可動域を広げる方法、大きく円を描く「首回し」、首を後ろへ大きく反らすストレッチは、はじめのメニューには入れていません。

アーチェリーエクササイズ(座ったまま、背中の上の方を動かす)

首と背中のつなぎ目は動きが悪くなりやすい場所です。教科書で、ここを動かすために紹介されている運動です[13]。

  1. 椅子に座り、顔は前に向けたまま動かさない
  2. 弓を引くイメージで、片手を前に伸ばし、反対の手は肘を曲げながら後ろへ引く
  3. 背中の上の方がねじれる動きを感じながら、左右交互にゆっくり行う

はじめは左右交互に5回ずつ程度から。

椅子を使った背中(胸椎)の反らし

  1. 背もたれのある安定した椅子に座り、足を床につける
  2. 腕を胸の前で組む
  3. 背もたれを支点に、胸の真ん中から背中の上の方を小さく開く
  4. 首や腰だけを強く反らさず、ゆっくり戻す

はじめは5回程度。

仰向けでタオルを使う背中(胸椎)のストレッチ

  1. 仰向けになり、膝を立てる
  2. 丸めたバスタオルなどを、胸の高さの背中の下に横向きに置く
  3. 両手を頭の後ろに軽く添え、タオルを支点に胸を開く。首だけを反らさない。手で首を引っぱらない

はじめは低めのタオルで10秒程度を1〜2回から。慣れたら、教科書の設定(20〜30秒×3〜5セット)まで延ばせます[13]。首や腰に痛みが出る場合は、タオルを低くするか中止してください。

骨粗しょう症や背骨の圧迫骨折の経験がある方は、背中を反らす2つの運動を自己判断で行わないでください。


Q9:デスクワークで気をつけることは?

A: 楽な姿勢で作業できる環境を作り、15分ごとに10〜20秒の「姿勢リセット」、30分に1回は休憩を入れることです。

環境をととのえる

整形外科のリハビリテーションの教科書では、次の点が挙げられています[13]。

  • 画面は顔の正面で、視線がわずかに下がる位置に。画面と目の距離は40cm以上
  • 足の裏が床につき、股関節・膝・肘が約90°になるように椅子と机の高さを調整する
  • 背もたれ(腰の支え)の高さを合わせる
  • 書類を見ながら入力するときは、書類を画面の近くに置く
  • ノートパソコンは画面が低くなりやすいので、台に載せて画面を上げ、外付けのキーボードを使うのも一つの方法

15分ごとの「姿勢リセット」(座ったまま、道具なし)

教科書で、デスクワークや運転など座る時間が長い人に勧められている方法です[13]。

  1. 骨盤を起こし、背すじを伸ばす
  2. 頭のてっぺんを少し上に持ち上げるイメージで、軽くあごを引く
  3. 肩甲骨を軽く背骨の方へ寄せ、そのまま10〜20秒保つ
  4. 力を抜いて、楽な姿勢に戻る

大事なのは「ずっと固める」のではなく「こまめにリセットする」ことです。この記事で「姿勢を固めない」とお伝えしてきたのと同じ考え方です。スマートフォンを長時間のぞき込む姿勢にも気をつけてください。

学びを深めたい人へ:数値の出典

「視線がわずかに下がる位置」「股関節・膝・肘が約90°」「15分ごとに10〜20秒の姿勢保持」は非特異的頸部痛の章、「画面と目は40cm以上」「30分に1回程度の休憩」は頸椎症の章の記載です[13]。いずれも教科書の設定例で、すべての人に最適な境界値ではありません。文字の読みやすさ、画面の大きさ、足の裏と前腕を支えられるかを見て調整してください。


Q10:毎日、どれくらいやればいいの? ◆◇◇

A: 最初から全部はやりません。1〜2種目+歩くから始め、反応を見ながら少しずつ増やします。

時期やること
最初の数日①小さなうなずき か ③肩まわりの筋トレ から1〜2種目を選び、④歩く を組み合わせる
1〜2週目悪化しないことを確かめて、②首の押し合い運動などを追加。首の運動は数分〜10分程度、筋トレ系は週2〜3日
3〜4週目今の負荷が楽で悪化もなければ、回数・セット数・強さのうち一つだけ増やす。物足りなければQ7のゴムバンドの運動へ
4〜6週目に見直し痛みだけでなく、作業・振り向き・睡眠への支障が減っているかを確認。変化が乏しければ、運動の種類や、そもそもの診断を見直す

全部ではなく、少しずつ。最初の数日は1〜2種目+歩く、1〜2週目に押し合い運動などを追加、3〜4週目に一つだけ増やす、4〜6週目に生活への支障を見直す。週1回の振り返りの4項目。

週数は進み方の一例で、ノルマではありません。

「そんなに短時間で意味があるの?」と思うかもしれません。首・肩の痛みがある会社員198人を対象にしたRCTでは、1日わずか2分の、少しずつ負荷を上げていく筋トレを週5日・10週間続けたグループで、健康情報を受け取るだけのグループより、痛みが0〜10の尺度で平均1.4ポイント多く下がりました[5]。

学びを深めたい人へ:1日2分の筋トレのRCT(デンマーク)

Andersen LL, et al. Effectiveness of small daily amounts of progressive resistance training for frequent neck/shoulder pain: randomised controlled trial. Pain. 2011. PMID: 21177034[5]

会社員198人を、1日2分の筋トレ群、1日12分の筋トレ群、対照群(毎週の健康情報の提供)に分けて10週間比較しました。ゴムバンドを使った肩の筋トレ(ラテラルレイズ)で、負荷を段階的に上げています。これは「負荷を少しずつ上げる筋トレ」の結果であり、「1日2分なら、どんなストレッチでも効く」という意味ではありません。今回の4種目のセットを試した研究でもありません。

ほかの本では「1回10〜20分、1日2〜3回、できれば毎日」といった、より多い設定も紹介されています。この記事の回数は、運動習慣のない人向けに控えめに置いた開始設定です。


Q11:運動中に痛くなったら、やめるべき? ◆◇◇

A: 運動中・直後・翌朝の3回で判断します。しびれ、力の入りにくさ、新しい痛み、急な悪化が出たら、その場で中止です。

運動したあとの反応どうする?
軽い違和感だけで、運動後に落ち着き、翌朝は元どおり同じ量で続ける
その日はできたけれど、翌朝まで明らかに痛みが増えている量を一段階戻す。回数・強さ・動かす範囲のいずれかを減らす。悪化が続けば相談
腕に広がる痛み、しびれ、力の入りにくさ、新しい頭痛、めまいが出た中止して医療機関へ相談。痛みの点数が低くても続けない

運動中・直後・翌朝で判断する。翌朝は元どおりなら同じ量、翌朝まで痛みが増えたら量を一段階戻す、腕に広がる痛み・しびれ・脱力・新しい頭痛やめまいは中止して医療機関へ相談。

はじめのうちは、痛みを0〜10で表したとき、運動中におおむね0〜3くらいに収まる負荷を目安にしてください。

学びを深めたい人へ:「0〜3」の根拠

英国の公的医療サービス(NHS inform)の患者向け資料は、運動中の痛みを0〜5程度に調整する目安と、翌朝に全体として悪化していないことを示し、新しい痛みや悪化があれば中止するとしています[10]。この記事の0〜3は、運動習慣のない人向けに、それより控えめに置いた独自の目安です。「3を超えたら体が傷ついている」「3以下なら必ず安全」という境界線ではありません。安静にしていても強い痛みがある人に、この枠で運動を勧めるものでもありません。


Q12:効果があったかは、どう判断すればいい?

A: 姿勢の写真より、「生活でラクになったこと」を見ます。

週に1回くらい、次のような変化をふり返ってみてください。

  • 仕事中、首がつらくなるまでの時間が延びたか
  • 左右へ振り向くときのつらさが減ったか
  • 首の症状で、眠りが妨げられることが減ったか
  • 同じ運動が、前より楽にできるようになったか

ガイドラインも、痛みの強さだけでなく、生活の中での動きやすさ・支障の程度を含めて評価する立場です[2]。

症状が悪化していく、しびれなどの神経の症状が出てきた場合は、4〜6週間を待たずに受診してください。


Q13:首こりと一緒に頭痛もあるときは? ◆◆◇

A: 頭痛の種類によって、合う運動が違います。「首がこる+頭痛」だけで、同じメニューにまとめないでください。

首からくる頭痛・緊張型頭痛

首の不調が原因の頭痛(頸性頭痛)や緊張型頭痛では、首・肩まわりの軽い持久力トレーニングなどが選択肢になります。ただし、「首がこっていて、頭も痛い」というだけで、首が原因の頭痛だとは判断できません。

片頭痛

片頭痛には、首の筋トレより、中くらいの強さの有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、エアロバイクなど)が予防の選択肢として支持されています[7,8]。

片頭痛のある42人のRCTでは、首に特化した筋トレを8週間行っても、比較グループより頭痛の回数や強さが明らかに減ることはありませんでした[6]。一方、片頭痛のある人のRCTでは、週3回・1回40分の有酸素運動を3か月続けたグループで、予防薬やリラクセーションのグループと同じように発作が減りました[7]。

いきなり40分から始める必要はありません。Q6の「歩く」と同じく5〜10分から、発作のない日に、少しずつ延ばしていきます。息は弾むけれど会話はできる、くらいが目安です。発作中は行わないでください。

日本頭痛学会の「頭痛体操」

腕をふる・肩を回す動きを中心にした体操で、日本頭痛学会が公式に紹介しています。補助的なメニューとして取り入れるのは良い選択です。

ただし、学会の資料でも、片頭痛の発作中、強い頭痛があるとき、熱があるときは行わないとされています。体操の最中に痛みが強くなったら、すぐに中止してください。顔を正面に向けたまま体をひねる動きでも首にはひねりが加わるので、症状が出ない範囲で行います。

学びを深めたい人へ:片頭痛の研究の読み方

Benatto MT, et al. BMC Neurol. 2022. PMID: 35366822[6]:片頭痛のある42人を、首に特化した筋トレ群と、偽の超音波治療+自宅ストレッチ指導群に分けて8週間比較。筋トレ群の明らかな優位性は示されませんでした。小規模な試験で優位性が確認されなかったという結果であり、あらゆる首の運動が無効と証明されたわけではありません。

Varkey E, et al. Cephalalgia. 2011. PMID: 21890526[7]:片頭痛のある人を、有酸素運動(理学療法士の指導による屋内サイクリング中心、週3回・40分)、リラクセーション、予防薬トピラマートの3群に分けて3か月比較。3群とも発作回数が減り、群間に統計学的な差は検出されませんでした。群間差を探す設計の試験で、「薬と同等の効果が証明された」わけではありません。薬をやめて運動に置き換える根拠にはしないでください。対象は片頭痛の人で、首こりの人ではありません。

Reina-Varona Á, et al. Phys Ther. 2023. PMID: 37410390[8]:14人の専門家による国際的な合意(デルファイ研究)で、有酸素運動などが片頭痛への運動の選択肢として挙げられています。専門家の合意であり、効果を直接測ったRCTではありません。


Q14:この記事の運動、どこまで信じていい?

A: 「運動が勧められる」ことには根拠があります。でも、回数や組み合わせは「控えめな開始設定」です。

正直にお伝えします。

根拠があるのは、方向性です。慢性的な首の痛みに運動が役立つこと、ストレッチだけより筋力・持久力の運動を含む方が支持されていること、短時間でも段階的に負荷を上げる運動に意味がありうること。ここまでは、研究とガイドラインが支えています。

確定していないのは、細かい処方です。この記事の回数・秒数・頻度は、研究や教科書、医療機関の運動資料を参考にした、一般向けの控えめな設定です。このメニュー一式をそのまま検証したRCTはありません。

研究の対象と、あなたは違うかもしれません。多くの研究は、数か月以上首の痛みが続いている人が対象です。日本語の「首こり」と、論文の「首の痛み(neck pain)」も、完全には同じものではありません。

そして、前回の記事との関係で一つだけ。この運動は、首肩の症状と生活のしやすさを目的にしたものです。気分の落ち込みを治す運動メニューではありません。首肩が楽になり、動けるようになることで、気持ちが少し軽くなる人はいます。でも、メンタル不調の診療や治療の代わりにはしないでください。


あなたへ

「毎日ちゃんとやらなきゃ」と思うと、続かなくなります。

だから、今夜は仰向けで小さなうなずきを5回。明日は10分歩く。それだけで十分なスタートです。

首こりは、「正しい姿勢」を守れないあなたのせいではありません。楽に動かせる範囲から、少しずつ慣らしていきましょう。変化の出方には個人差があります。うまくいかないときも、あなたの努力不足とは限りません。

それでも良くならないとき、不安なときは、ひとりで抱えずに医療機関を頼ってください。


Q15:トレーナー・指導者が気をつけることは?

A: 「評価してから選ぶ」「ほぐしで終わらせない」「基本編と発展編を使い分ける」「処方の確からしさを盛らない」の4点です。

指導者向けの図解は、複数枚版(4枚)と保存版(1枚)を用意しています。

1. 運動の前に、医療につなぐべき状態を確認する

レッドフラッグ(炎症性・全身性疾患、悪性腫瘍、骨折、椎骨脳底動脈循環不全、神経学的損傷、頸髄症、上位頸椎不安定性など)[13]、神経症状(上肢への放散痛・しびれ・筋力低下)、脊髄症を疑う所見(巧緻運動障害・歩行障害)、外傷歴、手術歴、骨粗鬆症性骨折の既往。これらがあれば、一般的な首こりメニューを当てはめず、医療機関へつないでください。

指導者向け:運動の前に医療連携。すぐに医療機関・救急へ、当日中に医療機関へ相談、運動を始める前に相談の3段階。

2. ほぐしは入口。能動的な運動へ早めに橋渡しする

小さなうなずき(運動制御)だけで止めず、等尺性運動・肩甲帯の抵抗運動・全身運動へと段階的に負荷を上げてください。「首の深層筋だけを使え」「肩甲骨を寄せて固めろ」といった過剰な指示は不要です。

指導者向け:運動は役割から選ぶ。力まずに首を動かす→小さなうなずき、負荷に耐える→押し合い運動・肩まわりの筋トレ、動かさない状態から戻る→歩くなどの全身運動。

3. 道具なしの基本編と、ゴムバンドの発展編を使い分ける

運動習慣のない人には、まず道具なしの基本4種目から。教科書にも「姿勢や動作パターンが改善する前に、頸部筋の過度な筋力強化は行わない」とあります[13]。進める条件は、動作が安定し、今の負荷に余裕があり、症状が悪化していないこと。改善しない場合は、負荷を増やすだけでなく再評価を行います。首の後ろのバンド運動(頸部伸展筋トレーニング)は、頸椎の過度な伸展を避け、上肢の神経症状がある人には用いないでください。

指導者向け:負荷は段階を分ける。進める条件は動作の安定・今の負荷に余裕・症状の悪化なし。種目ごとの開始量と進め方、戻す・見直す条件。

4. 回数・頻度は「開始設定」として扱う

この記事の数値は、特定のRCTの処方ではありません。クライアントの症状、運動経験、翌日の反応を見て調整してください。頭痛を伴う場合は頭痛のタイプを確認し、片頭痛発作中の運動は避けてください。経過の評価には、Neck Disability Index(NDI)や Patient-Specific Functional Scale(PSFS)などの質問票が使えます[13]。

指導者向け:数値は開始設定。支持される方向性と確定していない細部、再評価の項目、NDI・PSFS、頭痛がある場合の注意。

保存版・指導者向け「首こり運動 指導の要点」。医療連携の確認、評価から運動選択・調整までの流れ、補足、用語。

判断に迷う場面では、Dr. Buddy の Doctor Hotline で医師に直接相談できます。「この症状で運動を続けていいか、医療につなぐべきか」──その線引きに医学的な視点を入れることで、指導はより安全になります。なお、急性の神経症状などの緊急時は、Hotlineを待たず救急へつないでください。


Q16:もっと深く知りたいときは?

A: この記事の骨格になったガイドライン・研究と、動作の参考資料を紹介します。

ガイドライン・レビュー

  • [1] El-Allawy A, et al. Clinical Practice Guideline: Nonspecific Neck Pain. Dtsch Arztebl Int. 2025. PMID: 40665902
  • [2] Blanpied PR, et al. Neck Pain: Revision 2017. J Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(7):A1–A83. PMID: 28666405
  • [3] Gross A, et al. Exercises for mechanical neck disorders. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(1):CD004250(検索対象は2014年まで)
  • [4] Blomgren J, et al. Effects of deep cervical flexor training on impaired physiological functions associated with chronic neck pain: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2018. PMID: 30486819

介入研究・専門家合意

  • [5] Andersen LL, et al. Effectiveness of small daily amounts of progressive resistance training for frequent neck/shoulder pain: randomised controlled trial. Pain. 2011. PMID: 21177034
  • [6] Benatto MT, et al. Neck-specific strengthening exercise compared with placebo sham ultrasound in patients with migraine: a randomized controlled trial. BMC Neurol. 2022. PMID: 35366822
  • [7] Varkey E, et al. Exercise as migraine prophylaxis: a randomized study using relaxation and topiramate as controls. Cephalalgia. 2011. PMID: 21890526
  • [8] Reina-Varona Á, et al. Therapeutic Exercise Parameters, Considerations, and Recommendations for Migraine Treatment: An International Delphi Study. Phys Ther. 2023. PMID: 37410390(専門家合意)
  • [12] Hardwick DH, et al. A comparison of serratus anterior muscle activation during a wall slide exercise and other traditional exercises. J Orthop Sports Phys Ther. 2006. PMID: 17193867(健康な20人の筋活動研究)
  • [14] Andersen CH, et al. Effect of scapular function training on chronic pain in the neck/shoulder region: a randomized controlled trial. J Occup Rehabil. 2014. PMID: 23832167

教科書

  • [13] 神野哲也 監修、相澤純也・中丸宏二 編集『ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション 第2版』羊土社。第7章-1「頸椎症性神経根症,頸椎症性脊髄症」(大坂祐樹)、第7章-2「非特異的頸部痛」(中丸宏二)。もともとは医療専門職向けの教科書で、この記事では一般の首こり向けに負荷を軽くして紹介しています

動作・安全管理の参考

  • [9] Tufts Medicine「Back + Neck Pain」(首の等尺性運動の患者向け資料)
  • [10] NHS inform「Exercises for neck problems」(運動中・運動後の反応の目安)
  • [11] NICE「Suspected neurological conditions: recognition and referral(NG127)」(神経症状の紹介基準)
  • [15] 使用するゴムバンド・固定具のメーカー取扱説明書
  • [16] 日本頭痛学会「頭痛体操」公式資料(PDF)(坂井文彦先生)
  • [17] NSW州 SIRA「Whiplash neck exercises」(小さなうなずき・首を左右に向ける運動の動作参考。むち打ち向け資料)

前回の記事


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状がある方、治療中の方は、医師・理学療法士などの医療専門職にご相談ください。